画数 が 多い 漢字の世界に足を踏み入れると、私たちが日常で目にする文字とは根本的に異なる「狂気」と「美学」の蠢きに圧倒される。普段の生活で難解とされる「鬱」(29画)や「薔薇」(各16画)など、足元にも及ばない。文字の限界線を軽々と超え、原稿用紙のひとマスを漆黒に染め上げるほどの筆画を誇る異形の文字群――それらは一体、誰が何のために生み出したのだろうか。
テレビのクイズ番組やWebメディアを騒がせる一方で、言語学者や文化人たちが熱視線を注ぐ画数 が 多い 漢字の歴史は、そのまま人類の探求心と表現意欲の軌跡でもある。単なる「言葉の道具」を超えた漢字文化の知られざる裏側を、最新の知見とともに読み解いていこう。
84画の超大物「たいと」と64画「𪚥」――大漢和辞典が誇る筆画の極致
実在する漢字の中で最も画数が多いとされる筆頭格が、合計84画を誇る「たいと」(あるいは「だいと」「おとど」)だ。「雲」を3つ、その下に「龍」を3つ配置するという、まさに雲間を龍が飛び交うような圧巻の構成である。苗字や店の屋号として使われた歴史が俗説として残るが、その実態は謎に包まれている。現代のデジタル環境ではフォント化すら困難を極める文字だが、その存在感は他の追随を許さない。
一方で、漢辞書に公然と収録されている最高画数の文字として名高いのが、64画の「𪚥」(てつ・ぜつ)である。「龍」を4つ組みあわせたこの漢字は、「言葉が多い」「喋り過ぎる」といった意味を持つ。古代中国の字書『字彙補』にも掲載されており、実用性はともかくとして、概念を文字に閉じ込めようとした古代人の情熱が伝わってくる。
57画の奇字「𱁬」とビャンビャン麺の謎!なぜこれほど複雑な漢字が生まれたのか
近年、中華料理の普及とともに日本でも一躍有名になったのが、57画(異体字では56画)を持つ「𱁬」(ビャン)という文字だ。中国陝西省の名物料理「ビャンビャン麺」の名称に使われるこの漢字は、穴、言、糸、長、馬、月、リ、心、辶など、膨大な構成要素がこれでもかと詰め込まれている。
なぜこれほど複雑な字が生まれたのか。そこには口伝の覚え歌が存在し、庶民が文字を記憶するための娯楽要素や、麺屋の商売上のアイキャッチ(看板効果)として意図的に創作された経緯がある。洗練された常用漢字とは対極にある、庶民の逞しいエネルギーが生み出した珍字と言えるだろう。