芦屋 川 駅のホームに降り立つと、まず耳に届くのは川のせせらぎと六甲山系から吹き抜ける澄んだ風の音だ。兵庫県芦屋市、川の上にホームが架かる全国的にも珍しい構造を持つこの場所は、阪急神戸線の主要駅が大規模な再開発に沸く中でも、どこか誇り高く独自の静けさを保ち続けてきた。だが、2026年を迎えた今、その静穏な佇まいの内側で、静かだが決定的な変化の波が広がっている。
かつて谷崎潤一郎ら文豪が愛した阪神間モダニズムの面影を今なお色濃く残すが、通勤ラッシュが落ち着いた午前の芦屋 川 駅周辺を歩くと、老舗の和菓子店を訪れる往年の住民に混ざり、軽量のノートPCを片手にした若い起業家やクリエイターの姿が目立つ。単なる「閑静なベッドタウン」という従来のイメージを超えて、職住が近接した新しいライフスタイルの拠点として再評価が進んでいるのだ。
川の上のステーションが紡ぐ「建築と都市」の100年
1920年の開業以来、芦屋川の清流を跨ぐ駅舎は、この街の象徴であり続けた。川を塞がず、周囲の景観と一体化するように作られた橋上構造は、100年以上が経過した今見ても先進的だ。
2026年に完了した耐震・改修工事でも、その歴史的価値は最優先で守られた。昭和初期の面影を残すレトロな欄干やホームの骨組みはそのままに、安全面のみを最新基準へアップデート。古いものを安易に壊さず、手入れを重ねて使い続ける姿勢に、この街独自の美学が凝縮されている。
高架下と路地裏に変革の波。老舗と新鋭ショップの幸福な共存
変化が最も顕著に現れているのは、駅から徒歩数分の小路だ。かつてはシャッターが閉ざされていた古い店舗物件が、ここ1〜2年で若手店主らの手によって次々とリノベーションされた。
「昔からの常連さんも、最近引っ越してきたIT系の方も、同じカウンターでコーヒーを飲んでいます」。駅北側でカフェを営む30代の店主はそう語る。創業数十年を誇る老舗の和菓子店やアンティークショップの目と鼻の先に、オーガニック素材にこだわった焼きたてパンの店やサステナブル衣料を扱うセレクトショップが並ぶ。新旧の店舗が互いを尊重し合う風景が、ここにはある。