cơm bò nhật――ベトナムの街角で今、最も熱い視線を浴びている食のトレンドがこれだ。日本の伝統的な庶民の味である牛丼が、東南アジアの成長市場で空前の大ブームを巻き起こしている。昼どきになれば、若者やオフィスワーカーが店内になだれ込み、甘辛い醤油の香りに包まれながら丼をかき込んでいる。
バイクの群れが行き交う活気に満ちた街並みにおいて、看板に躍るcơm bò nhậtの文字はもはや日常の風景となった。かつて日本食といえば高級な刺身や寿司が主流だったが、今や手軽に満足感を得られる和風ファストフードが食文化の最前線を塗り替えつつある。
なぜベトナムで「cơm bò nhật」が爆発的流行を見せるのか
熱気の冷めないホーチミン市。その中心街にある若者向けの繁華街では、連日行列が途切れない。経済成長を背景に、現地の外食産業は劇的な変化の只中にある。外食機会が非常に多いベトナム食文化において、短時間で手軽に栄養豊かな食事を取れるスタイルは、急速に高まる都市部の生活テンポと完璧に合致した。
従来、ベトナムのストリートフードといえばフォーやバインミーが絶対的な王座を誇っていた。しかし、若年層の所得向上と嗜好の多様化に伴い、米をベースにした肉料理へのニーズが急増。手頃な価格帯で高品質な牛肉を味わえる日本の丼ものが、若者たちの心を一掴みにしたのだ。
吉野家とゼンショーホールディングスが繰り広げる海外戦略の全貌
この巨大な波を捉え、熾烈な市場争いを繰り広げているのが日本の外食巨人たちだ。吉野家ホールディングスは現地企業との強力な提携のもと、都市部の好立地を中心に洗練された店舗網を構築。ブランドが持つ歴史と品質管理の徹底を武器に、信頼感の高い日本食としての地位を固めている。
一方で、圧倒的な出店スピードでシェアを拡大しているのがゼンショーホールディングスだ。同社を率いる小川賢太郎の手腕によって培われた徹底したフードサプライチェーンと店舗展開ノウハウは、東南アジアの新興市場でも遺憾なく発揮されている。「すき家」ブランドを展開する同社は、ファミリー層や学生が気軽に利用できる価格設定と豊富なメニューバリエーションで現地消費者の胃袋を掴んだ。