Co2回収から次世代エネルギーまで——京都大・北川進の「穴の開いた新素材」が2026年の地球を救う衝撃

Co2回収から次世代エネルギーまで——京都大・北川進の「穴の開いた新素材」が2026年の地球を救う衝撃

北川 進特別教授が長年追究してきた「分子を吸着するジャングルジム」が、2026年のいま、気候変動に立ち向かう世界最強の武器として社会実装の絶頂期を迎えている。京都大学発のテクノロジーである多孔性金属錯体(MOF:Metal-Organic Framework)は、かつて異端の基礎研究とみなされていた。しかし今や、大気中の二酸化炭素(CO2)を直接回収するDAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)の心臓部として、グローバル企業や各国政府から凄まじい注目の的となっている。わずか1グラムでサッカー場1面分の表面積を持つとされるこのナノ空間が、私たちの住む地球の未来を物理的に書き換えようとしているのだ。

かつて「誰も見向きもしなかった領域」に光を当てたのは、他ならぬ北川 進氏の狂気にも似た知的好奇心だった。1990年代、金属イオンと有機配位子が規則正しく結びついた多孔質構造は「脆くて実用化など不可能」と嘲笑された。だが、周囲の冷ややかな反応をよそに、彼は分子レベルで空間の大きさと機能を精密に設計する手法を次々と発明。大気中に漂う極めて薄い温室効果ガスだけをピンポイントで捕捉するという、かつてのSF映画のような世界を現実に引き寄せたのである。

「空気から炭素を捕まえる」2026年、実用化の波が世界を飲み込む

2026年現在、世界のDACプラントの風景は一変した。従来の液体アミンを用いた大仕掛けなCO2回収システムは高コストと膨大な熱エネルギーに苦しんできたが、MOFを組み込んだ次世代フィルターがそのボトルネックを一気に打破したからだ。

北川氏らが開発を進めてきた新世代MOFは、特定の分子サイズと化学的親和性だけを識別する。湿度が高い過酷な屋外環境であっても、水蒸気に邪魔されることなくCO2だけを効率よく「捕獲」する。排気ガスのような高濃度ガスだけでなく、大気中のわずか0.04%という超低濃度ガスすら効率的に吸着できる点が最大の強みだ。

北米や中東で稼働を開始したメガソーラー併設型DACプラントでは、捕獲したCO2をその場で合成燃料(e-fuel)や持続可能な航空燃料(SAF)へと変換する試みが急速に進む。化石燃料を掘り起こす時代から、空気を資源として採掘する時代へ。MOFはそのパラダイムシフトの真ん中に鎮座している。

「スカスカの物質」が起こした化学のコペルニクス的転回

専門家の間で「スカスカの物質」と形容された多孔体。活性炭やゼオライトといった従来のアモルファス材料とMOFの違いは、その「設計可能性」と「柔軟性」にある。

北川氏が1997年に発表した第三世代のMOFは、外部からの刺激——例えば圧力や温度、光の照射——に応じて構造がまるで生き物のように伸び縮みする「柔軟性多孔性錯体(Soft Porous Crystals)」という概念を世界で初めて提示した。分子が入ってきたときだけカプセルを開き、出た後は閉じる。この動的な挙動こそが、従来の化学の常識を覆した決定的な一打となった。

「穴を開けること」に一生を捧げた一人の化学者の情熱が、元素周期表の組み合わせ無限大という化学の原点と結びついたとき、素材革命の爆発的なエネルギーが生まれたのである。

中川 明日香
Penulis

中川 明日香

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。