ドラッグストアやスーパーの紙製品売り場で必ずと言っていいほど隣り合って並んでいる「エリエール」と「エルモア」。一見すると同系列の兄弟ブランドのように受け取られがちですが、その背後には大王製紙とカミ商事という2つの企業が歩んだ濃密な歴史と、製紙業界を揺るがした決定的な決別劇が存在します。
かつては強固な同族関係と販売体制で結ばれていた両社が、なぜ現在のように別々の道を歩み、ライバルとして市場でしのぎを削るようになったのか。創業家である井川家をめぐる歴史的経緯から、世間を騒がせたお家騒動の真相、そして現在の両社の立ち位置まで、ビジネス報道の現場から徹底的に紐解きます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】- 要点1:カミ商事はもともと大王製紙の創業家一族が設立した総販売元代理店であり、長年にわたり強固な資本・血縁関係にあった。
- 要点2:2011年の創業家スキャンダルを機に両社は決裂し、カミ商事側が保有株式を北越製紙(現・北越コーポレーション)へ売却したことで資本関係は完全に解消された。
- 要点3:現在は「エリエール」の大王製紙と「エルモア」のカミ商事として完全に独立し、品質志向とコスパ志向の住み分けを図りながら激しいシェア争いを展開している。
【創業家と歴史】カミ商事と大王製紙の知られざる深い関係とルーツ
カミ商事と大王製紙の関係を理解する上で欠かせないのが、日本有数の「紙の街」として知られる愛媛県四国中央市(旧伊予三島市・川之江市)と、そこに君臨した創業家・井川家の存在です。
大王製紙は1943年、井川伊勢吉氏によって設立され、戦後の高度経済成長期を経て日本を代表する総合製紙メーカーへと飛躍しました。その急拡大を販売・流通の現場で一手に引き受けて支えたのが、1962年に伊勢吉氏の親族らによって立ち上げられたカミ商事です。
カミ商事は大王製紙の専属的な直系販売代理店として機能し、全国の問屋や小売店へ強力な営業網を築き上げました。当時の大王製紙は製造に特化し、カミ商事が販売と流通の実権を握るという二人三脚の体制を構築。両社の間には濃密な親族関係が存在し、カミ商事など創業家関連企業は大王製紙の大株主として、経営の根幹を掌握する持ち株会社の役割すら果たしていました。
【決定的な決裂】大王製紙お家騒動の真相と資本関係解消の経緯
半世紀近くにわたり製紙業界最強のタッグを誇っていた両社の関係が崩壊へ向かったのは、2011年に発覚した大王製紙前会長・井川意高氏による巨額借り入れ事件が引き金でした。創業家3代目トップが子会社や関連会社から私的に巨額の資金を引き出していたこの不祥事は、大王製紙の経営陣と創業家一族の全面戦争へと発展します。
大王製紙の現役経営陣は企業統治の健全化を掲げ、創業家の影響力を徹底的に排除する方針を打ち出しました。これに対し、創業家側の中核企業であったカミ商事グループは激しく反発。一連の対立の中で、両者の信頼関係は修復不可能なレベルまで失墜しました。
事態が決定的な局面を迎えたのは2012年です。カミ商事をはじめとする創業家側の関連会社は、保有していた大王製紙の株式(議決権比率で約2割強)を、大王製紙の競合ライバルであった北越製紙(現・北越コーポレーション)へ一括売却しました。これにより、カミ商事と大王製紙の資本関係は完全に断ち切られ、長年続いた販売代理店契約も解消。かつての身内は、市場で直接対決する明確なライバル企業へと変貌を遂げたのです。