北海道のほぼ中央に位置し、波状丘陵が織りなす圧倒的な田園風景で知られる美瑛町。その代表的な観光ルート「パッチワークの路」において、ひときわ凛とした存在感を放ち続けているのが一本の巨木「ケンとメリーの木」です。どこまでも広がる北の大地と抜けるような青空を背景に、真っ直ぐ天へと伸びるその姿は、半世紀以上にわたって多くの旅人を惹きつけてやみません。
かつて社会現象を巻き起こした昭和の記憶から、時代が令和へと移り変わった現在に至るまで、この木はなぜこれほどまでに人々を魅了し続けるのでしょうか。名前に秘められたエピソードや現在の生育状況、さらには現地を訪れる際に押さえておきたいアクセスや周辺の立ち寄りスポットまで、その全貌を紐解きます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】- 要点1:1972年放映の日産スカイラインCMに起用され、美瑛町が全国的観光地となる契機を作った歴史的名木
- 要点2:樹齢90年を超える私有地内のポプラであり、現在は農地保護やマナー徹底のもとで大切に維持管理されている
- 要点3:セブンスターの木や周辺カフェと合わせたドライブに最適で、夏の新緑だけでなく冬の雪原風景も圧巻
【名前の由来と歴史】日産スカイライン「ケンメリCM」ロケ地となった背景
「ケンとメリーの木」という詩的な名前は、1972年(昭和47年)にスタートした日産自動車の4代目スカイライン(C110型)のテレビCM「ケンとメリー〜愛と風のように〜」に由来します。若い男女「ケン」と「メリー」が愛車とともに日本各地の美しい自然を巡るこのキャンペーンは、当時の若者層を中心に絶大な支持を集め、社会現象となりました。このCMシリーズの第15作ロケ地として選ばれたのが、美瑛の丘に立つこの一本のポプラの木でした。
CMソングとして起用されたフォークデュオ・BUZZの楽曲『ケンとメリー〜愛と風のように〜』の大ヒットも手伝い、スカイラインは通称「ケンメリ」と呼ばれ一世を風靡します。そして同時に、それまで全国的には無名の農業地帯であった美瑛町が、一躍「憧れの絶景地」として日本中に認知される大きな転機となりました。
丘の稜線に立ち、風に葉を揺らすポプラのシルエットは、自由と青春を象徴するアイコンとして人々の記憶に深く刻まれ、CM放映から50年以上が経過した今もなお、その名を冠して親しまれています。
【現在の状況と保護】樹齢90年を超える名木を守る美瑛町の取り組み
このポプラの木(セイヨウハコヤナギ)は、現在では樹齢90年以上、高さ30メートル超に達する堂々たる巨木へと成長しています。しかし、その雄大な姿を維持し続ける背景には、地元農家や美瑛町による並々ならぬ努力があります。
近年、美瑛の丘では観光客の急増に伴うトラブルが課題となってきました。特に問題視されたのが、写真撮影のために農地へ無断侵入する行為です。観光客の靴底に付着した見えない病原菌が畑に入り込むと、農作物に甚大な被害を及ぼします。過去には、マナー悪化や倒木の危険性から伐採を余儀なくされた「哲学の木」のような悲しい事例もありました。
幸いにも「ケンとメリーの木」は、地権者である農家の方々の理解と、観光協会や行政による保護活動によって守られ、現在も元気に葉を茂らせています。見学スペースの整備や立ち入り禁止エリアの明確化が進められており、訪れる旅行者一人ひとりの高いマナー意識が、この美しい景観を未来へつなぐ鍵となっています。