モメンタム ファクトリー orii(富山県高岡市)が手掛ける独特の「青」と緻密な「斑紋」が、世界のデザインシーンで急速に評価を高めている。400年を超える歴史を持つ高岡銅器の伝統的な金属着色技術を、現代の住空間や商業建築の意匠資材へと拡張させた同社の取り組み。銅や真鍮の表面を酸化腐蝕させ、自然が描くような複雑な色彩を引き出すその手法は、工業製品の均一さに飽和した海外のクリエイターをも魅了し続けている。2026年現在、ミラノ、ロンドン、ニューヨークなどの高級ホテルやブティック、ラグジュアリー住宅の空間デザインにおいて、彼らの着色パネルやプロダクトはなくてはならない存在となった。
北陸の静かな工房で生まれた伝統技術が、いかにして国境を越え、トップクリエイターたちのインスピレーション源となったのか。職人の手仕事と薬品の化学反応が奇跡的な発色を見せるモメンタム ファクトリー oriiの工房では、常に「伝統の継承」と「革新的な実験」が背中合わせで進行している。大量生産・大量消費の時代を経て、空間に「時間の深み」と「素材の本質」を求める風潮が世界的に強まる中、彼らが提示する金属の表情は、工芸とプロダクトデザインの境界線を鮮やかに塗り替えつつある。
400年の伝統と現代化学の融合:「Orii Blue」が描く発色発想の転換点
高岡銅器の歴史は慶長16年(1611年)、加賀藩主の前田利長が高岡城築城に伴い、7人の鋳物師をこの地に招いたことにさかのぼる。仏具や花器などの伝統的工芸品において、金属の表面に深い味わいを与える「着色」は、常に最後の工程であり、製品の格を決める極めて重要な専門職だった。糠(ぬか)や大根汁、米酢、酒かすといった身近な自然由来の材料を用い、金属を温めながら化学変化を触発する。この秘伝の技法は、長年受け継がれてきた職人の感性と経験の賜物だ。
代表の折井宏司氏は、その伝統技法を薄膜の銅板や真鍮板に応用するという前例のない挑戦に打って出た。従来の着色技術は厚みのある鋳物を前提としており、わずか0.5ミリから1ミリ程度の薄い金属板に均一かつ美しい斑紋模様を定着させることは極めて困難とされていたからだ。試行錯誤の末に完成した「Orii Blue(オリイブルー)」をはじめとするオリジナルカラーは、銅本来の酸化被膜が生み出す青緑色や紫、漆黒が幾重にも重なり合い、吸い込まれるような奥ゆきを持つ。
「均一な塗装なら塗料で十分だ。私たちが作っているのは、金属そのものが生きている証しとしての表情である」と現場の職人は語る。薬品の濃度、室内の湿度、炎を当てる角度や秒単位の時間経過。あらゆる条件が複雑に絡み合う作業現場では、機械による自動化は到底不可能だ。1枚として同じ表情が存在しないオリジナルの斑紋銅板は、工業化が進んだ現代社会において、極めて贅沢な「一点もの」としての価値を獲得している。
世界のハイエンド建築が求めた「時間の深み」:壁面パネルから照明装置まで
近年、ヨーロッパを中心とする国際的な建築マーケットにおいて、人工的な新しさをアピールする建材から、時間経過とともに味わいを増す有機的な素材へのシフトが顕著になっている。2026年、大手建築事務所やインテリアブランドがこぞって採用しているのが、まさに同社の壁面板やインテリアエレメントだ。
空間に設置された瞬間から独特の陰影と重厚感を醸し出す銅板パネルは、エントランスのメインウォールやエレベーターホールの内外装、高級レストランのカウンター材として数多く納品されている。特に「Orii Marble」や「斑紋ガス青銅色」と呼ばれるカラーバリエーションは、間接照明の光を柔らかく分散させ、金属でありながら温かみを感じさせる不思議な質感で空間全体を包み込む。
さらに、建築資材としての大型パネルにとどまらず、ペンダントライトやトレイ、クロックといったインテリアプロダクトの開発にも積極的だ。プロダクトデザイナーとの協働によって生まれるアイテム群は、和の空間のみならず、北欧デザインやモダンミニマリズムのインテリアとも見事に調和する。単なる「和風工芸」の範疇を遥かに超え、グローバルなインテリアトレンドの文脈の中で独自のポジションを築き上げた点が注目に値する。