退廃的な美貌と圧倒的な存在感で、2000年代後半から2010年代初頭の映画・ドラマ界に鮮烈な爪痕を残した女優、パズ・デ・ラ・ウエルタ(Paz de la Huerta)。マーティン・スコセッシが製作総指揮を務めた米HBOの超大作ドラマ『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』でのルーシー役や、ギャスパー・ノエ監督の映画『エンター・ザ・ボイド』で見せた魂を削るような怪演は、今なお多くの映画ファンの記憶に刻まれています。
しかし、キャリアの絶頂期にあった彼女を取り巻いていたのは、華やかなスポットライトだけではありませんでした。人気絶頂でのドラマ降板劇、主演映画の撮影現場で起きた重傷事故と巨額訴訟、そして映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行を実名で告発した勇気ある行動――。多くの波乱を乗り越えた彼女は、今どのような日々を送っているのでしょうか。激動の歩みと知られざる真相、そして気になる現在の動向を紐解きます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】- 経歴とブレイク:名門の血筋と類まれなスタイルを武器にモデル時代から脚光を浴び、『エンター・ザ・ボイド』『ボードウォーク・エンパイア』で世界的評価を確立。
- 降板と訴訟の真相:『ナース3D』撮影中のスタント事故による重傷や現場トラブル、さらにワインスタインからの被害が重なり、不本意なキャリアの停滞を余儀なくされた。
- 告発と現在の姿:ワインスタインを法廷へ追い詰めた重要証言者として歴史に名を刻み、2026年現在はインディペンデントな表現活動やアートシーンで独自の存在感を放ち続けている。
【経歴プロフィール】名門の血筋からモデル時代を経て異色のカルト女優へ
1984年9月3日、ニューヨーク・ソーホーで生まれたパズ・デ・ラ・ウエルタ(本名:マリア・デ・ラ・パズ・エリザベス・ソフィア・アドリアーナ・デ・ラ・ウエルタ)。父はスペインの由緒ある貴族の家系に連なる血筋であり、母は国連などで女性のバースコントロール(産児制限)普及に尽力した専門家という、極めて知的で国際色豊かな家庭環境で育ちました。
わずか4歳で演劇を学び始めた彼女は、10代前半でスカウトされファッション界へ進出します。ハイブランドのコレクションやトップフォトグラファーの被写体を務めたモデル時代には、アンニュイかつどこか危険な香りを漂わせる佇まいで「イット・ガール」としてニューヨークのストリートカルチャーを席巻しました。
1990年代後半から映画界へ進出し、『サイダーハウス・ルール』や『ウォーク・トゥ・リメンバー』などの話題作に出演。商業的な枠組みに囚われないエッジの効いた演技力と、一度見たら忘れられない独特のハスキーボイスは、気鋭の映画監督たちを惹きつけてやみませんでした。
【代表作の輝き】『エンター・ザ・ボイド』と『ボードウォーク・エンパイア』の圧倒的存在感
パズ・デ・ラ・ウエルタの名を世界に知らしめた決定的な作品が、2009年のカンヌ国際映画祭で物議を醸したギャスパー・ノエ監督の映画『エンター・ザ・ボイド』です。東京・歌舞伎町を舞台にしたサイケデリックな世界観のなか、主人公の妹リンダ役として全編にわたり激しくも切ない感情を体現。カンヌの批評家たちに強烈なインパクトを与えました。
その直後、彼女のキャリアは最大のハイライトを迎えます。2010年にスタートした米HBOのプレミアムドラマ『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』への抜擢です。禁酒法時代のアトランティック・シティを牛耳る主人公ナッキー・トンプソンの愛人、ルーシー・ダンジガー役を熱演。コケティッシュでありながら脆さを抱えた悪女を見事に演じ切り、全米映画俳優組合賞(SAGアワード)アンサンブル演技賞を受賞するなど、世界規模のスターダムへと駆け上がりました。