大相撲の歴史において、平成後期最大の激震となった第70代横綱・日馬富士による暴行事件。土俵上での気迫あふれる取り口でファンを魅了した大横綱が、巡業先の酒席でのトラブルを機に突如として土俵を去る結末は、日本中へ強い衝撃を与えました。
事件から年月が経過した現在でも、角界の体質改善やガバナンス改革の転換点として語り継がれています。当時、密室の宴席で一体何が起きていたのか。世間を騒がせた「ビール瓶使用疑惑」の真相や電撃引退に至った背景、そして関係者の現在について、当時の捜査資料や公式証言をもとに紐解きます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】- 要点1:事件の発端は2017年10月の鳥取巡業中の酒席であり、説教中の態度を巡る暴行から突発的に発展した
- 要点2:最大の争点となった「ビール瓶での殴打」は後の捜査・証言で否定され、素手やリモコン等による暴行と判明
- 要点3:引退後の日馬富士は母国モンゴルで教育事業を手掛け、小中高一貫校の理事長として新たなキャリアを築いている
【事件の発端】鳥取の夜に何が起きたのか?暴行に至る経緯と白鵬・鶴竜の証言
事件が起きたのは、2017年10月25日深夜から26日未明にかけてのことでした。秋巡業で訪れていた鳥取市内の飲食店において、鳥取城北高校相撲部関係者やモンゴル出身力士らによる懇親会が開催されていました。
一次会を終え、一行は二次会となるラウンジへ移動。酒席の最中、当時の横綱・白鵬が日馬富士や後輩力士たちに対して日頃の土俵態度や礼儀作法について説教を行っていました。その際、後輩である貴ノ岩がスマートフォンを操作し、着信に応対しようとしたことが引き金となります。
「大先輩が話している最中になぜ携帯をいじるのか」と激昂した日馬富士が、貴ノ岩の態度を咎めて平手打ちを加えたことから事態は急速に悪化。その場には白鵬、鶴竜の両横綱も同席しており、白鵬が止めに入ったものの興奮状態を制止しきれず、激しい暴行へと発展してしまいました。後の相撲協会危機管理委員会の聴取において、同席した力士たちは当時の緊迫した状況を生々しく証言しています。
【凶器の真偽】ビール瓶での殴打はあったのか?診断書と貴乃花親方の告発
事件が11月に大々的にスクープされた際、メディア各社は「ビール瓶で頭部を乱打した」と報じ、世間に戦慄が走りました。しかし、その後の鳥取県警による捜査および相撲協会の調査によって、この「ビール瓶殴打」の真偽は大きく修正されることになります。
聴取結果によると、日馬富士がビール瓶を手に取ったことは事実であるものの、「ビール瓶は手から滑り落ちて殴打には使われていない」ことが判明しました。実際の暴行は素手による平手打ち数十発に加え、カラオケのリモコンや灰皿を振り下ろしたものであったと認定されています。凶器の有無にかかわらず、無防備な後輩力士に対する一方的な加害行為である点に変わりはありませんでした。
貴ノ岩側は「頭部裂傷」「右頭蓋骨骨折の疑い」などが記載された医師の診断書を提出。当時の師匠であった貴乃花親方(元横綱)は、協会の報告要請に応じる前に警察へ被害届を提出するという強硬姿勢を取りました。この行動が日本相撲協会執行部との激しい対立構図を生み、角界全体を巻き込む一大騒乱へと拡大していったのです。