無表情の少年がリュックを背負い、腰の前後に目にも留まらぬ速さで腕を交差させる――。SNSやYouTube、人気オンラインゲームを通じて世界的な社会現象を巻き起こした「バックパックダンス(フロスダンス)」。一見するとコミカルでありながら、実際にやってみると驚くほど難易度が高いこのダンスは、海外セレブやトップアスリートまでも巻き込む一大ムーブメントとなりました。
一大ブームから月日が流れた今なお、ネットミームの金字塔として語り継がれるこのダンスは、一体どこから生まれ、なぜこれほどまでに人々を熱狂させたのでしょうか。話題を呼んだ少年の正体から、誰でも踊れる実践的なステップのコツ、そしてゲーム業界を揺るがした法廷闘争の結末まで、カルチャーの深層を解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】- 要点1:バックパックダンスの元ネタは、米国の少年ラッセル・ホーニング(The Backpack Kid)が発案し、ケイティ・ペリーの生放送番組出演を機に世界へ大拡散した。
- 要点2:別名「フロスダンス」の由来はデンタルフロスを使う動作にあり、独特の中毒性と適度な難易度がSNSやゲーム『フォートナイト』での爆発的流行を後押しした。
- 要点3:ブーム絶頂期にはゲーム開発会社への著作権訴訟に発展したものの、現在ラッセルは音楽やインフルエンサー活動を継続し、ネット発カルチャーの象徴として定着している。
【発祥の謎】世界を熱狂させた「バックパックダンス」の元ネタと火付け役の正体
バックパックダンスの元ネタとなったのは、アメリカ・ジョージア州出身の当時15歳の少年、ラッセル・ホーニング(Russell Horning)がInstagramに投稿したダンス動画です。リュックサックを背負ったまま、一切表情を変えずに猛烈なスピードで腕を振るシュールな姿がネット上で話題を呼び、彼は瞬く間に「バックパックキッド(The Backpack Kid)」の愛称で知られるようになりました。
このローカルなバズを世界規模のメガヒットへと押し上げた決定的な瞬間が、2017年5月に訪れます。米人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』のシーズンフィナーレにおいて、世界的ポップスターのケイティ・ペリーが新曲『Swish Swish』を披露した際、バックダンサーの1人としてラッセル少年がステージに登場しました。煌びやかな衣装をまとったプロダンサーたちの中で、地味な服装にバックパックを背負った彼が無表情で披露した高速腕振りダンスは、生放送を観ていた視聴者に強烈なインパクトを与えました。
放送直後からSNS上には「あのリュックの少年は何者だ?」「ダンスのキレが凄すぎる」と驚嘆の声が殺到し、海外の反応は瞬く間に過熱。ケイティ・ペリーの知名度と番組の拡散力が起爆剤となり、バックパックダンスは瞬く間に国境を越えるグローバルトレンドへと変貌を遂げました。
【動作の由来】なぜ「フロッシング」と呼ばれるのか?ダンスの意味と流行した理由
英語圏でこのダンスは「Floss Dance(フロスダンス)」または「Flossing(フロッシング)」と呼ばれます。その名称の意味は非常にシンプルで、背中から胸の前へと腕を交互に通す動きが、まるで歯の隙間にデンタルフロスを通して前後に動かす様子に似ていることから名付けられました。
なぜこのシンプルな腕振りダンスが、子供からプロスポーツ選手までを巻き込む社会現象となったのでしょうか。流行の背景には、3つの明確な要因が存在します。
第一に、「見た目は簡単そうなのに、いざやってみると脳が混乱して踊れない」という絶妙なゲーム性です。腕と腰を互い違いに動かすポリリズム的な身体操作が必要となるため、SNS上で「#FlossChallenge」として挑戦動画を投稿するユーザーが続出しました。
第二に、ダンス自体の高い汎用性と中毒性です。アップテンポなヒップホップからポップス、エレクトロニックミュージックまで、BPM(テンポ)が100〜130前後の楽曲であればどんな曲にもマッチします。代表曲となったケイティ・ペリーの『Swish Swish』はもちろん、様々なミーム音源に合わせて踊れる柔軟性がバイラル拡散を加速させました。
第三に、感情を排した無表情(デッドパン)スタイルのユーモアです。激しい動きに対して顔を一切動かさないシュールなコントラストが、Z世代を中心とするインターネットカルチャーの感性に完璧に合致しました。