ニホン ウナギを取り巻く危機は、2026年の今、ついに引き返せない地点へと達しつつある。今期のシラスウナギ(稚魚)の国内飛来数は、過去最低レベルにまで落ち込んだ。東京・日本橋の老舗暖簾をくぐれば、うな重1人前の価格が7000円を超え、店内に客の深いため息が漏れる。「もはや日常の贅沢ではない」。かつて庶民のスタミナ源だった伝統の味覚は、いまや富裕層や外国人観光客だけが享受できる高嶺の花と化してしまった。
だが、絶望の暗雲の中に一筋の光が差し込んでいる。静岡県と鹿児島県にある実験施設から、長年「神の領域」と囁かれてきたニホン ウナギの完全人工養殖技術において、コストを劇的に引き下げる新製法が発表されたのだ。野生資源の枯渇、密輸ルートの横行、そして国際的な取引規制の圧力。多面的な危機が押し寄せるなか、日本の伝統的な食文化は生き残ることができるのか。最前線の現場を追った。
1kgあたり400万円の「白いダイヤ」――暴騰するシラスウナギと悲鳴を上げる現場
暗闇の海岸線に、ヘッドライトの光が揺れる。真冬の寒風が吹き荒れる高知県の河口付近。漁師たちがたも網を振るうが、網に入るのは流木とゴミばかりだ。「一晩中粘って、捕れたのはたったの3匹。油代にもなりはしない」。ベテラン漁師は乾いた笑いを浮かべた。
シラスウナギの不漁は深刻さを増すばかりだ。2026年シーズンの取引価格は1キログラムあたり400万円を突破。「白いダイヤ」の異名は伊達ではない。価格の高騰はそのまま消費者の財布を直撃する。街の蒲焼き店は相次いで閉店に追い込まれ、残った店も「本日仕入れなし」の貼り紙を掲げる日が増えた。需要と供給のバランスは完全に崩壊している。
マリアナ海溝の深淵へ――2026年、謎に包まれた産卵生態の最新研究
なぜ、これほどまでに数が減っているのか。その答えを探るべく、研究者たちは赤道近くの太平洋へと船を出している。日本から約2500キロメートル離れたマリアナ海域。ここがウナギたちの故郷だ。
2026年最新の海洋調査により、地球温暖化に伴う北赤道海流の変動が、浮遊する卵や幼生(レプトセファルス)を本来の回遊ルートから外れさせている可能性が濃厚となった。黒潮に乗って日本列島へ辿り着く前に、多くの幼生が外洋へと流され、途絶えてしまうのだ。乱獲という人為的な要因に加え、地球規模の環境変化という目に見えない波が、ウナギの運命を翻弄している。