中華 料理 四海 樓の名を耳にして、あの濃厚で深みのあるスープを思い浮かべない長崎県民はいないだろう。港町・長崎県長崎市松が枝町に構える大楼閣は、いまや単なる飲食店にとどまらず、地域文化を象徴するランドマークとして連日多くの人々を引き寄せている。異国情緒が交錯する街並みのなかで、一際異彩を放つその圧倒的な佇まい。暖簾をくぐると、香ばしい胡麻油の香りと炒め野菜の活気が一気に押し寄せてくる。
近年、急速な活況を呈する日本の観光業において、本物の長崎グルメを目的としたトラベラーの足足は絶えない。大手グルメサイト「食べログ」でも常に上位をキープし続ける中華 料理 四海 樓は、まさに日本の外食産業の第一線を走り続ける怪物的な老舗だ。なぜこれほどまでに人を引きつけて止まないのか。その秘密を探るため、我々は現地へ飛び、独自の取材を敢行した。
明治29年創業の軌跡:創業者・陳平順が「長崎ちゃんぽん」と「皿うどん」を生んだ理由
話は明治時代に遡る。中国福建省から海を渡って来日した創業者・陳平順は、当時長崎に住んでいた貧しい中国人留学生や労働者たちに、安くて栄養価の高い食事をお腹いっぱい食べさせたいという強い思いを抱いていた。そこから試行錯誤の末に生み出されたのが、いまや全国的に知られる長崎ちゃんぽんである。
肉や野菜、そして長崎の海がもたらす新鮮な海産物を贅沢に炒め、豚骨と鶏ガラを煮込んだ濃厚スープと合わせる。この一鉢に込められた情熱は、やがてスープを減らしてトロリとした餡かけにした皿うどんという傑作をも誕生させた。本物の伝統を受け継ぐ中華料理 四海樓の歴史は、そのまま長崎の食文化の歴史そのものと言っていい。
地元民が口をそろえる「秘伝スープの裏側」と元祖ならではのこだわり
「普通のスープとは何かが違う」。長崎に暮らす地元客は一様にそう口を揃える。四海樓のスープは、一切のまやかしを排した純度の高い豚骨と鶏ガラのダブルスープだ。白濁した液体のなかに、エビやイカ、カマボコ、そしてキャベツの自然な甘みが余すところなく溶け込んでいる。
火力の調整一つで味が変化するデリケートな鍋仕事。長年厨房を守る職人たちの手さばきには一切の狂いがない。化学調味料の刺激に頼りがちな現代の中華料理店が多いなか、骨本来の旨味をじっくり凝縮させた重厚なコクは、一度味わえば記憶から離れない強烈なインパクトを残す。