人形 焼は、江戸の情緒を今に伝える東京を代表する銘菓である。ふんわりとしたカステラ生地に、しっとりとした小豆餡が詰まったこの和菓子・伝統菓子は、100年以上の時を超えて人々に愛され続けてきた。下町の街角を歩けば、どこからともなく香ばしい甘い匂いが漂い、通行人の足を止めさせる。古き良き伝統を守る職人たちの手技は、今も変わらず街の日常を彩っている。
かつて芝居小屋が集まる街として栄えた日本橋人形町で誕生した人形 焼だが、その製法や形は時代とともに多彩な変化を遂げてきた。職人が鋳型の型に生地を注ぎ込み、一焼き一焼き丁寧に裏返す手仕事。機械化が進む現代の和菓子製造業にあっても、温度や湿度を見極める熟練の感性だけは代えが効かない。職人たちの意地と情熱が、今日も焼きたての香ばしさとなって店頭を飾る。
浅草と日本橋人形町が誇る元祖の歴史と職人のこだわり
人形焼の起源を辿ると、江戸時代の日本橋人形町に行き着く。当時は七福神や文楽人形を模した焼き物が始まりとされ、庶民の気軽なおやつとして親しまれた。明治時代以降には浅草にも伝わり、五重塔や雷門などを象った浅草流の人形焼が確立されることになる。
職人のこだわりは生地の配合と餡のバランスに尽きる。卵、砂糖、小麦粉を絶妙な塩梅で混ぜ合わせた生地は、冷めてもしっとり感を失わない。中のあんこはこし餡が主流だが、つぶ餡や餡なしの「から焼き」を好むファンも多い。気候に合わせて火力を微調整する職人の指先には、言葉で語り尽くせない長年の勘が宿っている。
ドラマ『新参者』とNetflix配信が再燃させた人形町ブーム
近年、人形町の名物として再び脚光を浴びた背景には、映像作品の影響が大きい。人気ミステリー作家・東野圭吾の原作を映像化したTBSテレビのドラマ『新参者』だ。主演の阿部寛が演じる加賀恭一郎刑事が、劇中で行列に並び続けたシーンはあまりにも有名である。
放送から年月が経った今も、Netflixなどのグローバル配信プラットフォームを通じて作品を観た国内外の観光客が聖地巡礼として人形町を訪れている。劇中に登場する煎餅屋や和菓子店とともに、人形焼の売り場には日日途切れることなく長い列ができる。ドラマの一場面が、伝統菓子の魅力を新たな世代や海外へ伝える架け橋となった。